はじまり
今にも雨が降りそうな重くたれこめた雲の下、時折強い湿った風が吹く。前髪がふわりと持ち上げられるのを見る。表情を表さない横顔は何も感情を伝えず、絶え間なく生みだされる沈黙が吹き流されていく。
照らす
それははじめての感情だった。手の上に載せられた光だけで、心の中に安息の場所が生まれた。顔も見えず、感情も知らず、ただそれは伝わる範囲だけを照らす灯りとなった。
黒
それだけを追いかけてそのまま眠りにつく夜があれば良かったと思いながらまた、青白さを浴びる。
あくびの
桜の山道をくだる。ただ歩きながら、そののどかさに誘われた眠気がぼんやりと目を開く。
花散る
無数にある道、その日を待つ、手をのばしたい。
大丈夫
その範囲が、その人なのかもしれないこと。
終わり
ことばを聴く星の子がいるといい。夜の海で、うっすらと、灯っている。そこではきっと一際大きな波が打ち寄せる度場面が変わるだろう。
わたし 時々すごくおおきいことにもあんまりびっくりしない でも時々すごくちっちゃいかもしれないことにひどくゆさぶられる。
春の始まりの頃に友人と吉野まで桜を見に行った。少し遠かったけどこんな時でもないと遠くまで行かないだろうと思って、私たちのお出かけにしては早起きして、電車に揺られてきた。普段よりは少し暑い日で、とりあえず高いところまではバスで行ってひたすら歩いて下ってきた。春の午後の陽光に照らされたり照らされなかったりしながら舗装された道をただただ下りていくのは、歩きながらあくびが出るほど穏やかで何事もなくて、外界から切り離された感じというのはこういうことなんだろうと思ってずっと続けばいいと思っていた。